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相続の基礎知識QA

遺言書を作成するため公証人に出張してもらいたいのですが、どうしたらいいですか?

公証人に出張してもらって遺言書を作成する方法や手続きの流れ、費用や注意点について、詳しくご説明します。

遺言書の中で最も多く利用されている「公正証書遺言」。
公証役場で作成できることは、知っている方も多いですよね。

でも、病気などの事情で公証役場に行けない場合はどうしたらいいでしょうか?

こんな時は、公証人に自宅や病院などに出張してもらうことができるんです。

とはいえ、一般の方が公証人に出張を頼むなんて、ちょっと敷居が高いですよね。

ここでは、公証人に出張してもらって遺言書を作成する方法や手続きの流れ、費用や証人などの注意点について、詳しくご説明します。

段取りのコツや手続きのポイントを知っておくだけで、安心して利用できますよ。

全部読めば出張による公正証書遺言の作成についてはひと通り分かるはずですが、長文なので、手っ取り早くポイントだけ知りたい方は下記の目次からジャンプしてください。



公証人に出張で遺言書を作成してもらう方法(目次)



公正証書遺言書を作成するまでの手続きの流れは、おおまかにいうと以下のとおりです。

  1. 公証役場に連絡(事前相談の予約)
  2. 打ち合わせ(必要書類を提出、遺言書の文案や段取りを決める)
  3. 公証人と遺言者が面談
いきなり公証役場に連絡を入れた場合は、「とりあえず事前相談に来てください」となります。

もちろん公証人に出張してもらっての遺言書作成を希望するぐらいなので、遺言者本人が事前相談に行くことは難しいですよね。

そうすると、身内の方などが代わりに公証役場へ行って事前相談することになりますが、事前相談で指示された必要書類を集めて再度公証役場に持っていくのは、実はかなり大変です。

公証役場の事前相談では、個別の状況に応じて必要書類などを親切に説明してくれますが、なにせ相談者は遺言者本人ではありません。

公証役場側も説明するのが難しいうえに、相談している側も必要書類の説明を聞いてもそれを集める方法が分からなかったり、公証人に伝えるべき財産の内容があやふやだったりと、しんどい思いをすることもあるでしょう。

実は、予約をする前にいろいろ用意しておいたほうが、段取りがかなりスムーズに進みます。

ここからは、公正証書遺言作成までの段取りのコツや注意点について説明していきますので、予約前にぜひ確認してください。



公正証書遺言を作成する場合、出張を頼む場合に限らず多くの書類が必要になります。

出張で作成する場合に特有のものも含めて、事前に用意しておいたほうが良い書類をご紹介します。

事前相談の段階では、公証役場も「概要を記載したメモ」などで対応してくれたりと、それほど厳密に資料を求められるわけではありません。

が、最終的に公証役場へ支払う手数料を見積ってもらうには財産の内容がわかる資料が必要になりますし、関係者についても遺言書への正確な記載が求められるため、結局は関係者全員の資料(戸籍謄本や住民票、身分証コピーなど)も必要になります。

ですので、はじめからある程度の必要書類を用意しておいたほうが、公証役場に客観的に状況を伝えることもできるので、遺言書作成の段取りがものすごくスムーズに進みます。

【公正証書遺言作成の必要書類】
  1. 遺言者と相続人との続柄が分かる戸籍謄本
  2.  
  3. 相続人以外の人に遺贈する場合、財産を受け取る人の住民票
  4.  
  5. 遺言者の印鑑証明書(発行から3ヶ月以内のもの)
  6.  
  7. 不動産がある場合
    (1)土地・建物の登記簿謄本
    (2)固定資産評価証明書または固定資産税納税通知書
    (3)借地の場合、所有者(地主)と借主(遺言者)の契約書と路線価図
  8.  
  9. 預貯金がある場合、通帳のコピー
  10.  
  11. その他、財産の内容がわかる書類のコピー
  12.  
  13. 証人が決まっている場合、証人の身分証のコピー
  14.  
  15. 遺言書の内容を記載したメモ

1.遺言者と相続人との続柄が分かる戸籍謄本

もともと遺言者の相続人である人に財産を相続させる内容の遺言書を作成する場合、遺言者と相続人との続柄が分かる戸籍謄本が必要です。

例えば以下の家族構成の場合、
父:世田谷太郎(遺言者)
母:世田谷花子(遺言により財産をもらう人)
長男:世田谷一郎(財産はもらわない)
二男:世田谷二郎(財産はもらわない)
世田谷太郎が妻である世田谷花子にすべての財産を相続させるという遺言書を作る場合ですね。

この場合は、遺言者である世田谷太郎と財産を譲り受ける配偶者世田谷花子の戸籍謄本が必要になるわけです。

なお、夫婦である世田谷太郎と世田谷花子は同一の戸籍に記載されていますので、戸籍謄本は1通で足ります。

また、夫婦の子である世田谷一郎と世田谷二郎は、相続人であっても遺言によって財産を譲り受けないので戸籍謄本は不要。

とてもシンプルですよね。


兄弟姉妹に相続させる場合の戸籍謄本
兄弟姉妹に相続させる場合は、必要になる戸籍謄本は複雑です。

「相続させる」と遺言書に記載するからには、大前提として兄弟姉妹が相続人でなければなりません。

が、兄弟姉妹が相続人になる場合というのは、
(1)遺言者に子がおらず、かつ
(2)両親(直系尊属)も亡くなっている
上に当てはまる場合のみなんです。

遺言者には「子も両親もいない」ということが確認できないと、公証人も兄弟姉妹が相続人かどうか判断できませんので、兄弟姉妹に「相続させる」という内容の遺言書を作るなら、上の(1)と(2)が確認できる程度の戸籍は集めなければならないことになります。

(1)の「子がいないこと」を証明するには、遺言者の出生(少なくとも生殖可能年齢)から現在に至るまでの全ての戸籍謄本が必要になります。

子供ができると戸籍に記載されることになるので、遺言者の全ての戸籍を集めて「子に関する記載がないこと」を証明しなければならないんですね。

それから(2)。
子がいなければ、次に相続人となるのは両親や祖父母。「直系尊属」といいます。

兄弟が相続人であることを証明するには、直系尊属も亡くなっていることが分かる戸籍も必要になるというわけです。

例えば次の場合、
遺言者:世田谷太郎(妻と子はいない)
遺言により財産をもらう人:世田谷兄太郎(世田谷太郎の兄)
世田谷太郎の両親(直系尊属)はすでに死亡
兄太郎に相続させる内容の遺言書を作るには、
(1)遺言者世田谷太郎の出生から現在までの戸籍謄本
(2)世田谷太郎の両親(直系尊属)の死亡の記載のある戸籍謄本
(3)財産を譲り受ける世田谷兄太郎の現在の戸籍謄本
以上の戸籍謄本が必要になります。
配偶者や子に相続させる場合と比べると、はるかに大変ですね。


「相続させる」ではなく「遺贈する」と記載することもできる
遺言書に「相続させる」と記載するには、財産を譲り受ける人は遺言者の相続人でなければなりません。

一方で「遺贈する」という文言は、相続人はもちろん、相続人ではない人に財産を譲る場合にも記載できます。

「遺贈する」なら、相続関係を公証人に証明することなく公正証書遺言が作れるので、戸籍を集める手間は省けますね。

あわせて「相続開始時に、前記受遺者世田谷兄太郎が遺言者の相続人であるときは、「遺贈する」を「相続させる」に読み替える」という文言も載せておけば、いざ遺言者が亡くなったときに、遺贈ではなく「相続」として財産を移転する手続きができます。


「遺贈する」と「相続させる」の違い
法律上の違いはさておき、遺言書に「遺贈する」と記載した場合と「相続させる」と記載した場合とで、どういう違いがでるのでしょうか?

実は、どちらを記載した場合でも、結果的に遺言によって指定された人が、遺言書の内容に沿って財産を取得することに違いはありません。

が、遺言者が亡くなって実際に財産を移転する際の手続方法には、大きな違いがでるんです。

例えば不動産の名義変更(相続登記)では、
  1. 「遺贈する」の場合、財産をもらう人と遺言者の相続人(または遺言執行者)全員が協力して手続きしなければならない。
  2.  
  3. 「相続させる」の場合、財産をもらう相続人だけで手続きができる。
という違いがあります。

つまり、「遺贈する」の場合、関係者全員が書類に押印するなどして手続きに関わらなければなりませんが、「相続させる」だと財産をもらう相続人が単独で手続きできるというわけですね。

「遺贈する」の場合だと、関係者が険悪になっているなどの理由で手続きが進まなくなることもありますし、場合によっては裁判で解決せざるを得ないことも。

一方「相続させる」だと、もらう側が単独で名義変更できるので、もめ事になって手続きが進まなくなる心配はありません。

ですので、遺言書によって相続人に財産を譲る場合は、できる限り「遺贈する」ではなく「相続させる」の文言を記載すべきと言えますね。



2.相続人以外の人に遺贈する場合、財産を受け取る人の住民票

相続人に財産を譲る場合は戸籍で財産をもらう人を特定しますが、相続人以外の人に財産を譲る場合は、住民票でその人を特定します。

住民票は一般の方にもなじみがある書類ですね。



3.遺言者の印鑑証明書(発行から3ヶ月以内のもの)

必要書類の中で唯一有効期限があるのが、この印鑑証明書。

発行から3ヶ月以内のものでなければなりません。

段取りに時間がかかって遺言書を作成する当日までに期限が切れてしまうと取り直しになってしまいます。

だからと言って作成ギリギリまで取得しないままだと、公証人も遺言者本人を正確に特定することができません。

ですので、期限が切れる心配がある場合でも、できれば事前に印鑑証明書を取得して公証人に提出しておいたほうが、段取りはスムーズですね。



4.不動産がある場合

(1)土地・建物の登記簿謄本
遺言書に記載する不動産を正確に特定したうえで、遺言者が間違いなくその不動産を所有しているのかを確認するために必要な書類です。

全国どこの法務局でも取得できますが、どうしても取得が難しい場合は、公証役場側でインターネットを利用して取得してくれます。

この場合、1通あたり335円の実費手数料がかかります。


(2)固定資産評価証明書または固定資産税納税通知書
公正証書遺言の作成費用は、遺言書に記載する財産の価額によって変わります。

そこで、遺言書に不動産を記載する場合は、その不動産の評価額を公証人に伝える必要があるんですね。

役所で取得できる「固定資産評価証明書」でももちろんOKですが、毎年5月~6月に役所から送られてくる「固定資産税納税通知書」でも大丈夫。

わざわざ役所に行く手間が省けるので、「固定資産税納税通知書」のほうがいいですね。


借地の場合、所有者(地主)と借主(遺言者)の契約書と路線価図
土地を借りている場合も、その借りる権利自体が相続財産になります。

例えば、借地のうえに遺言者が自宅を所有している場合、建物はもちろん、土地を借りる権利も遺言書に記載する必要があるんですね。

土地を借りる権利の価額は、自分が所有する土地ではないので「固定資産税納税通知書」には記載されていません。 借地の評価には、一般的には「路線価図・評価倍率表」が使われます。

詳細の説明は省きますが、上のホームページから遺言書に載せる借地の所在をたどって、該当のページを印刷しておきましょう。

それから、土地を借りる権利の存在自体を確認するため、地主と借主(遺言者)の契約書も必要になります。



5.預貯金がある場合、通帳のコピー

通帳のコピーは、口座の内容(銀行名・支店名・口座の種類・口座番号)と預金残高が分かれば十分です。

支店名や口座番号が記載されている見開きの部分をコピーしましょう。

また、公正証書遺言の作成費用の計算のため、残高がわかるページのコピーも必要です。

定期預金があるなら、明細が印字されている部分も忘れずにコピーしましょう。


ゆうちょ銀行の場合
ゆうちょ銀行の場合、支店名や口座番号がありません。代わりに必要になるのが「記号番号」です。

これも通帳の見開きに記載されているので、見開きをコピーしましょう。

また、一般の銀行の口座種類は「普通預金」「定期預金」などですが、ゆうちょ銀行では「通常貯金」「定額貯金」となります。

預金種類の名称が違うんですね。

定額貯金の場合、「記号番号」と「証書番号」で預金を特定することになるので、通帳の該当部分をコピーしてください。

なお、最近主流の「総合口座」の場合、通常貯金と定額貯金が同一の通帳にまとめられています。

この場合、通常貯金と定額貯金の記号番号は同一なので、コピーすべき部分は「見開き」「通常貯金の最新残高」「定額貯金の明細ページ」となります。



6.その他、財産の内容がわかる書類のコピー

株式や債権がある場合は、その証書のコピーもとっておきましょう。

遺言書作成費用の計算のための評価は、難しい内容なのでここでは割愛しますが、公証人の指示に従ってください。



7.証人が決まっている場合、証人の身分証のコピー

公正証書遺言を作成する場合、作成当日に証人2名が立ち会う必要があります。

遺言者側で証人を用意するのが難しい場合は公証役場側で用意してくれますのでご安心を。

遺言者側で証人を用意する場合、証人の身分証(運転免許証など)のコピーを早めに提出しておきましょう。

なぜなら、証人に関する情報(住所・氏名・職業・生年月日)も、遺言書の記載内容になるからなんです。

遺言者が公証役場に行って遺言書を作る場合は、作成当日に証人の身分証を公証人が確認して遺言書に記載することもできますが、出張で作成する場合は、公証人が事前に用意した公正証書遺言の原本を持参してきます。

ですので、事前に証人の身分証コピーを公証役場に提出して正確な情報を伝えておかないと、仕上がった状態の遺言書を出張当日公証人が持参できないことになってしまいますよね。

出張の場合は特に、できるだけ早めに証人の身分証コピーを提出しておくのが段取りをスムーズに進めるポイントです。

なお、職業は「会社員」「無職」などで大丈夫。勤務先に関する情報などは一切不要です。

証人になれない人
未成年者や遺言に利害関係がある人は、証人として立ち会うことができません。

利害関係のある人とは、「推定相続人」「受遺者(遺言で財産をもらう人)」と、その配偶者や直系の血族。

身内でも上記に該当しない人は証人になれますが、用意するのが難しければ、無理をせず公証役場側で用意してもらいましょう。


司法書士など専門職が証人になる場合
専門家に遺言書作成を依頼した場合、依頼を受けた専門職が証人を用意します。

専門職が証人になる場合でも、遺言書に記載する証人の住所は、事務所の住所ではなく身分証に記載の現住所になりますので念のため。

提示する身分証も、司法書士会の会員証ではなく、運転免許証などあくまでも公的機関が発行したものになります。



8.遺言書の内容を記載した文案のメモ

専門家に作成を依頼した場合は依頼人の希望に応じて専門家が原案を作成しますが、専門家に依頼しない場合は、希望する遺言の内容を公証人に伝えなければなりません。

メモ書きで構いませんので、ポイントを押さえて内容を記載します。

具体的には「自宅の土地建物は妻に相続させる。」「○○銀行△△支店の預貯金は長男に相続させる。」のように記載しておけば十分。

また、例えば妻と長男に「6:4」のように割合に応じて相続させたい場合は、その旨もきちんと書いておきましょう。

実際の遺言書では、「遺言者の妻○○に5分の3、遺言者の長男△△に5分の2の割合により相続させる」のような厳密な記載になりますが、メモ書きでは公証人に内容が伝われば十分です。



公証役場に支払う公正証書作成の手数料は、法令の規定で定められていて、日本全国一律です。

まずは基本手数料を算出

基本手数料は、財産を譲り受ける人ごとの財産の価額に応じて、以下のとおり。
100万円まで 5,000円
200万円まで 7,000円
500万円まで 11,000円
1,000万円まで 17,000円
3,000万円まで 23,000円
5,000万円まで 29,000円
1億円まで 43,000円

1億円を超える部分については、下記がそれぞれ加算されます。
1億円を超え3億円まで 5,000万円ごとに13,000円
3億円を超え10億円まで 5,000万円ごとに11,000円
10億円を超える部分 5,000万円ごとに8,000円


出張特有の費用

病床執務加算 基本手数料の50%
日当 半日/10,000円:1日/20,000円
交通費 電車代・バス代など実費


正本・謄本の料金

作成が終わると、遺言書の原本は公証役場が保管しますが、正本(法律上原本と同じ取り扱いが可能な遺言書)と謄本(正本の写し)が遺言者に手渡されます。

手渡される正本・謄本それぞれ、4ページ以上ある場合は、4ページ目から1枚ごとに250円がかかります。

料金の例

遺言者:世田谷太郎
財産をもらう人:(長男)世田谷一郎/5,200万:(二男)世田谷次郎/800万
公証人が世田谷太郎宅に出張して遺言書を作成
遺言書の枚数:4枚
世田谷一郎分の基本手数料 43,000円
世田谷二郎分の基本手数料 17,000円
病床執務加算 30,000円(基本手数料計60,000円の50%)
遺言加算 11,000円
日当 半日/10,000円
正本代 1,000円
謄本代 1,000円
合計 113,000円+交通費


ポイントは、財産の評価額が決まらないと手数料も確定しないということ
手数料を確定するためにも、関係資料を早めにきっちり提出しておくことが大切ですね。



ある程度資料がそろったら、公証役場に相談の予約を入れます。

最近は公証役場はどこも忙しそうです。なかなか予約が取れない場合も多いので、余裕をもって予約して、そのあとのスムーズな段取りを心がけたいところですね。

なお公証人は、法令の定めによって、自分が所属する法務局の管轄外では業務ができません。

例えば世田谷公証役場の公証人は東京法務局所属になるので、出張できる範囲は東京都内まで、ということになります。

出張を希望する場合は、出張先の管轄に所属する公証人に依頼しなければならないというわけですね。

公証役場の所在地はこちらをどうぞ。



ここからがいよいよ山場。
早いうちに正確な資料を準備・提出できると、後の段取りがスムーズに進むこと間違いなしです。


ポイント1:戸籍謄本・住民票・印鑑証明書は原本を持参しましょう

戸籍謄本や住民票、印鑑証明書は原本を持参します。

印鑑証明書は公証役場で原本を保管するので返してもらえませんが、戸籍謄本や住民票は公証役場でコピーをとったら原本を返してくれます。


ポイント2:口座の通帳など、財産に関する資料はコピーでよいか?

財産に関する資料も原本を持参するに越したことはありません。
が、出張での遺言作成を希望する場合、そもそも遺言者本人が事前相談に赴くことはできないでしょうから、原本を持参するには、代わりに相談に行く人が通帳を遺言者から預からなくてはなりません。

しかし、思わぬ事故を防ぐためにも通帳を預かるのは避けたいところ。

ですので、通帳など他人に預けるのが危険なものは、コピーで十分です。

私が遺言書作成を依頼された場合も、通帳を預かったことはありません。公証役場に提出するのは、いつもコピーです。

反対に、ただちに悪用されるような危険がない資料、例えば「固定資産税の納税通知書」や「借地契約書」については、できるだけ原本を持参したほうがいいですね。

原本を持参したうえで公証役場でコピーをとってもらったほうが、公証役場としては安心できるはずです。



ポイント3:遺言者の意思能力はどうか?

遺言書作成で一番重要なポイント。公証役場側に伝えなければならない情報の中でも、最も大切な情報です。

そもそも認知症などにより意思能力が十分でない場合は、遺言をすることはできません。

ポイントは、ありのままを伝えること。

  • 遺言書の内容を理解しているか?
  • 会話はできるか?
  • 署名はできるか?
  • このあたりのことを、ありのまま伝えましょう。

    遺言者の意思能力の判断は公証人が行います。

    ちなみに署名ができるかどうかは意思能力とはあまり関係ありませんが、公証人にとっては必ず知りたい情報です。


    場合によっては「診断書」が必要に
    遺言者に意思能力があるかどうか不明な場合は、医師の「診断書」が必要になる場合があります。

    公証人は意思能力の鑑定の専門家ではないので、医師の診断によって正確に判断するためですね。

    診断書は、精神鑑定のような大げさなものではなく、医師が出す証明書の形式で十分。

    一般的には以下のような雛形が使われてます。

    画像が表示されない場合、こちらをどうぞ。診断書雛形


    ポイント4:証人について

    上のほうでも触れましたが、公正証書遺言の作成では、証人2名の立ち合いが必要です。

    出張による遺言書作成の場合、前もって証人2名の氏名・住所・生年月日・職業を知らせておかないと、遺言書の文案を確定できず公証役場が困ってしまいます。

    氏名・住所・生年月日については身分証明書のコピーを提出し、職業についてはコピーの余白に記載しておくなど、正確に伝えておきましょう。


    ポイント5:メールやFAXでのやりとりも可能

    公証役場との段取りといえば電話やFAXでのやりとりが主流でしたが、最近はEメールでのやりとりが可能なところも増えてきました。

    最初の相談の際に提出できなかった資料のコピーなどは、PDFで添付してEメールで公証役場に送信することもできますので、積極的に活用したいところです。


    ポイント6:「計算書(見積書)」をもらおう

    遺言の内容が固まり、財産に関する資料も提出できれば、遺言書作成の費用も確定できます。
    計算書(見積書)を公証役場から出してもらいましょう。



    当日の流れについても知っていたほうが安心できますよね。
    まずは当日用意しておくべきものから説明します。


    当日用意しておくもの

    1. 遺言者の実印
      印鑑証明書の期限切れなどで取り直した場合は、印鑑証明書原本も用意する
    2.  
    3. 証人の認印、事前にコピーを提出した証人の身分証の原本
    4.  
    5. 公証人に支払う手数料(できればお釣りがないように準備しておきましょう。)
    万が一事前に提出できなかった資料などがある場合は、必ず事前に公証役場から指示がありますので、きっちり準備しておきましょう。


    遺言書の読み上げ

    公証人が遺言者本人と2名の証人に遺言書の内容を読み聞かせます。

    出張の場合、公証人が遺言者と会うのはこの日が初めてのはずなので、遺言書の内容を理解しているかどうかを確かめながら、説明も交えてゆっくりと丁寧に読み上げてくれます。


    署名押印

    読み上げが終わったら、遺言者と2名の証人がそれぞれ遺言書の原本に署名押印します。

    氏名を書いたら、遺言者は実印で、証人は認印で押印。住所の記載は不要です。

    全員の署名押印を確認したら、最後に公証人が原本と正本に署名しますが、さすが公証人の先生。達筆です。
    字の汚い私は、証人署名欄の自分の字を見て、いつも恥ずかしくなります。

    それから、司法書士が証人として立ち会う場合、遺言者の実印と印鑑証明書の照合を公証人から頼まれることが多いですね。 頼まれたらいつもどおりバサバサやりましょう。


    遺言公正証書の正本・謄本が交付される

    署名押印まで終わったら、その場で公証人が正本と謄本を遺言者に交付します。

    正本は遺言者が亡くなったときに必ず必要になる大切な書類なので、大事に保管しましょう。

    謄本は、遺言執行者がいれば預けてもいいですし、ご自身で保管しても問題ありません。


    手数料を渡す

    手数料は現金で支払います。領収書も渡してくれるので受け取ってください。


    出張の場合、遺言者を写真撮影することも

    遺言者の意思能力に問題がないことを証拠として残すために、公証役場の事務の方が写真撮影する場合があります。

    入院先や自宅での姿を撮影されることに戸惑う遺言者もいらっしゃいますが、後日紛争になることを避ける目的ですので、協力してください。

    遺言で一番怖いリスクは、いざ遺言者が亡くなった後に、当時の遺言者の意思能力をめぐってもめ事になることなんです。

    「遺言書があるけど、当時親父にはすでに意思能力はなかったはずだ!」と、遺言の無効を主張して身内同士で紛争になることがままあります。

    これを避けるために写真を撮影するわけなので、むしろ「有力な証拠が残ってありがたい」ぐらいに考えましょう。

    当事者の意思確認を普段からやっている司法書士の立場からすると、「遺言書の有効性に疑いが残らないように、ここまでやってもらってありがたい」としか思えません。



    ここまで、いかがでしたでしょうか?

    公正証書遺言の作成って、需要は多いのに「公証役場に足を運ばないと作成できない」と考えている方が多いのが現状です。

    また出張による作成ができるとわかっても、なんとなく敷居が高く感じられてあきらめている方も多いのではないでしょうか。

    ここでは、出張による公正証書遺言作成の際に特有の注意点を交えながら説明してきましたが、公証役場に行って遺言書を作成する場合も、基本的にやることは一緒です。

    ちなみに我が世田谷区の公証役場では、私の依頼人のために、公証人ご自身のお昼休みを犠牲にしてまで日程を調整していただいたことがありました。

    私が作った原案のチェックから文案の作成、計算書(見積書)の提示まで、驚くほど迅速に丁寧に対応してもらえます。

    世田谷公証役場はいつもお客さんでいっぱいなのに、段取りの速さや正確さ、遺言者を含めた関係者への丁寧な対応など、ほんとうに驚くことばかりです。

    遺言書の作成を思い悩まれていた方も、この記事が作成のきっかけになれば、これほどうれしいことはありません。



    せたがや相続相談プラザを運営するフィデス世田谷司法事務所は、世田谷区三軒茶屋の司法書士事務所です。

    遺言書の作成をご依頼いただいた場合、相続人や財産の調査はもちろん、相続税を考慮した遺言内容の提案から公証役場との段取りまで、すべてお引き受けいたします。

    相続問題で不安や悩みをお持ちの方は当事務所の無料相談をご利用ください。

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