社長が亡くなって相続が発生した場合、会社のオーナー・経営者としての地位を受け継ぐのかどうかを考えなければならないのはもちろんですが、連帯保証人としての地位がどうなるかも、非常に気になるところですよね?
果たして会社を引き継がない相続人も連帯保証人としての責任を負わなければならないのか?その負担を免れるにはどうしたらよいのか?
故人が会社の連帯保証人になっていた場合、どんなことに注意しなければならないかについて、基本的な考え方をわかりやすく順番に説明していきます。
遺産に連帯保証債務がある場合の注意点(目次)
1. 相続するとどうなるか
連帯保証債務も他の遺産と同じように遺産相続の対象となりますが、その責任は各相続人がそれぞれの法定相続分の範囲で負うことになります。わかりやすいように具体例を挙げると、
【具体例】
被相続人:父(会社の社長)
相続人:妻、長男、次男
法定相続分:妻1/2、長男1/4、次男1/4
会社名義の借り入れ:2,000万円
社長である父が、借り入れの連帯保証人
この場合、連帯保証人としての責任は 妻1,000万円、長男500万円、次男500万円の範囲で相続されます。
要は、会社が借金を返せなくなったら、それぞれ法定相続分に応じた範囲で支払いを請求されることになるわけですね。この場合、連帯保証人としての責任は 妻1,000万円、長男500万円、次男500万円の範囲で相続されます。
遺産分割協議をして、例えば会社を受け継ぐ長男だけに連帯保証人としての地位を相続させると決めることはできますが、それには債権者の同意が必要となります。
ただ、実際には債権者(銀行)のほうから、会社の新しい代表取締役が連帯保証人になるように求めてくることが多いです。
会社にお金を貸している債権者にしてみれば、相続人全員に法定相続分に応じた連帯保証をしてもらうよりも、新社長一人に全額の連帯保証をしてもらった方がわかりやすいからですね。
ですので、例えば長男が新社長になるのであれば、その長男だけに連帯保証人としての地位を受け継がせて、会社を継がない妻や次男は連帯保証関係から離脱するっていうことは十分に可能。 この点は少し安心ですね。
会社の借金と連帯保証の相続は切り離して考える
亡くなったお父さんの遺産を相続して新たに連帯保証人になったとしても、会社名義の借金を相続するわけではありません。あくまで借金を返すのは会社。会社が借金を返せなくなった時にはじめて、連帯保証人が返済する義務を負うことになります。
ですので、借り入れを含む会社の財産と、連帯保証を含むお父さんの遺産相続については、切り分けて考える必要があります。
とはいっても、お父さんがひとりオーナーであった会社であれば、お父さん個人の遺産の中に会社の株式も含まれることになります。
お父さんが会社の株式の100%を持っていたのであれば、その株式を相続した人は、代表取締役を選ぶ権限を持つことになります。
また、会社を畳むかどうかの意思決定もできるようになります。
株式を相続したら、自ら代表取締役になって経営を引き継ぐのか、それとも新しい代表取締役を選任して経営を任せるのか、はたまた会社を畳むのか。
お父さんの遺産を相続する場合は、連帯保証人としての責任を負うことのみならず、会社を今後どうするかについて検討することは避けては通れません。
ですので、相続するかどうかを検討するには、大前提としてお父さん個人の遺産はもちろん、会社の経営や財務の状況もきっちり調査する必要があるというわけですね。
2. 相続放棄するとどうなるか
相続放棄をすると、連帯保証のようなマイナスの財産を相続することもなくなるけれど、不動産や預貯金のようなプラスの遺産はもちろん、会社の株式も相続できないことになります。つまり、会社とは相続放棄を機に縁が切れることになるわけです。
ですので、例えば、従業員もおらず会社を継続する必要がないなら、相続放棄も検討する価値があります。
もちろん、相続放棄をするとお父さんが遺したプラスの財産も相続することはできなくなってしまうので、連帯保証のことだけでなく、会社の株式はもちろん、不動産や預貯金など遺産全体をしっかり調査してから決断しなければなりません。
それから、相続人が全員相続放棄すると、次の順位の相続人、例えばお父さんの兄弟姉妹が相続人になるので、これもあわせて考えなければなりません。
新たに相続人になる人だって「相続したくない」と考えるのが普通ですから、その場合その人も相続放棄をしなければならなくなるからです。
3. 結局、会社を継続することが前提なら誰かが相続するしかない
連帯保証債務は、会社の継続を前提とする限りは必ず誰かが相続しなければなりません。例えば相続人全員が相続放棄すれば誰も連帯保証人にならずにすみますが、同時に誰も株式を相続できなくなる、つまり会社を継続することができなくなってしまいます。
ですので、相続人自らが代表取締役になって経営を引き継ぐにしろ、新たに誰かに社長になってもらうにしろ、会社を継続する前提であるならば、少なくとも相続人のうちの誰かが連帯保証人としての地位も相続するしかありません。
相続人の誰かが会社を受け継ぐ場合
特定の相続人が新社長として会社を引き継ぐなら、他の相続人全員が相続放棄することは可能です。相続放棄した人は遺産を一切取得することはできませんが、そのかわり、その人が連帯保証人としての責任を負うことは絶対になくなります。
先の例で言うと、長男だけが相続して、亡くなった社長の妻と次男が相続放棄をすれば、自動的に長男だけが連帯保証人としての地位を相続することになります。
多くの場合は新社長が会社の借金の連帯保証人になることを債権者側から要求してきますが、もし新社長だけが連帯保証人になることに債権者が同意してくれないようであれば、この方法を検討する価値があります。
新社長以外の相続人が全員相続放棄すれば、債権者の同意なんかなくても新社長ひとりが連帯保証人になるからです。
相続人ではない人が新社長になる場合
100%の株式を持っていた先代社長が亡くなって、相続人以外の人が新社長として会社を引き継ぐ場合も、相続人のうち誰かしらは株式を相続しなければなりません。相続するともれなく連帯保証人としての地位もついてくることになりますが、これは仕方がありません。相続人の誰かが株式を相続しないと、新しい代表取締役を選任することもできないからです。
相続人ではない人が新社長になる場合は、相続人が株式を持ったままの場合(新社長がいわゆる「雇われ社長」になる場合)と、株式も新しく社長になる人に譲り渡す場合があります。
が、いずれにしても前提として、株式を相続する人がいないと、新しい社長を選んだり、株式を譲り渡すこともできないことになるわけです。
ただ、相続人以外の人が新社長になる場合でも、相続人は連帯保証人としての地位を引き継いでいます。
特に、株式も新しい社長に譲り渡す場合、相続人にとっては、ほとんど縁が切れたと言っていい会社の連帯保証人になってしまうことになります。
ですので、相続人以外の人に会社を譲りたいのであれば、新社長になる人と会社にお金を貸してる債権者、それに相続人をあわせた三者間で、連帯保証人としての地位をどうするか?についてあらかじめ話をつけておかなければなりません。
債権者は会社の新しい代表取締役を連帯保証人にするよう求めることが多いとはいえ、なかには連帯保証の事を当事者全員が見落としたり忘れてしまっている場合だってあります。
こうなると相続人としては、万が一会社の返済が滞ったときに、突然連帯保証人として債権者から返済を請求されることになります。
株式も手放して縁が無くなった会社の借り入れの返済を要求されることは、相続人にとってかなりキツイ状況です。
すでに遺産である株式を他人に譲り渡すという処分行為をしてしまっている以上、もう相続放棄もできません。
こうなると、状況によっては、自己破産や債務整理をせざるを得ない状況にもなります。
相続から時間が経ってから連帯保証の問題が出てくると、当事者同士の面識が薄れたり新しい事情が出てきたりして、いろいろと難しい状況に陥ります。
遺産に連帯保証債務があったときは、会社やその他の遺産についてしっかり調査して、状況に応じてきっちり処理をしておきましょう。
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