ただし、遺産分割協議をやり直すことで、相続税とは別に贈与税や譲渡所得税が課税される場合があります。
いったん遺産分割協議がまとまったら、やり直しはできるだけ避けたほうが良いです。
ここでは、遺産分割協議のやり直しについて、課税のリスクとあわせてご説明します。
遺産分割協議のやり直しについて(目次)
1. 遺産分割協議をやり直せる場合と課税のリスク
解除によって遺産分割協議は効力を失い、あらめて相続人同士で遺産分けの話し合いをすることになります。
【わかりやすい例】
被相続人(亡くなった人)
父親
相続人
母親(被相続人の妻)と、一人っ子の長男
遺産
自宅と預貯金
遺産分割協議の内容
自宅は母親が取得する。
預貯金は長男が取得する。
母親と長男が同意すれば、いったんまとまった話し合いを解除して、あらためて下記のような内容で遺産分割協議をすることができます。父親
母親(被相続人の妻)と、一人っ子の長男
自宅と預貯金
自宅は母親が取得する。
預貯金は長男が取得する。
自宅も預貯金も母親が取得する。
課税のリスク
相続人全員が同意して解除したうえで遺産分割協議をやり直すことは、民法で認められています。一方で税法上は、一度成立した遺産分割協議を解除してやり直すことを、新たに財産を譲渡や贈与したものとみなします。
先ほどの例で言うと、長男はいったん取得した預貯金を無償で母親に贈与した、とされるのが税法上の取り扱いです。
なので、贈与を受けたとみなされる母親に贈与税が課税されることになります。
贈与税は、相続税とは別に課税されます。
はじめから「自宅も預貯金も母親が取得する」という内容で遺産分割協議をまとめておけば、贈与税はかかりませんでした。
贈与税は非常に税率が高いです。
遺産分割協議のやり直しは民法で認められているのにもかかわらず、贈与税などの税金がかかるのは、一見意地悪なようにも思えます。
一方で気軽なやり直しを認めてしまうと財産関係がとても不安定になってしまうので、遺産分割協議のやり直しを税法によってある程度規制していると言えます。
どちらにしても、遺産分割協議を解除してやり直すのは非常に手間もかかることなので、遺産分割協議は最初の一回できちんと成立させるに越したことはありません。
新たに遺産が見つかった場合はどうするか?
遺産分割協議のやり直しをしたいと考える一番の原因は、話し合いの時には判明していなかった新しい遺産が見つかることです。しかし、解除してもう一度やり直すのは、課税のリスクがあるので極力避けるべきです。
新しい遺産が見つかった場合でも、すでに成立している遺産分割協議の効力がなくなるわけではありません。
なので、解除してやり直すのではなく、新しく見つかった遺産についてだけ、追加で分割協議をすべきです。
新しい遺産が見つかった場合に備えて、最初の遺産分割協議書には、次の文章を記載しておくと良いです。
【記載例】
「後日、上記以外の遺産が判明した場合は、これについて相続人○○花子と▲▲一郎は、改めてその分割の協議をする。」
「後日、上記以外の遺産が判明した場合は、これについて相続人○○花子と▲▲一郎は、改めてその分割の協議をする。」
とはいえ、新たに見つかった遺産の価値が高くない場合にまで追加で分割協議をするとなると、あらためて相続人全員で話し合う必要があるので、かなりの負担になってしまいます。
その場合に備えて、最初の遺産分割協議書には「ある程度高額な遺産が見つかった場合だけ追加で分割協議をして、価値が低い遺産については相続人の特定の誰かに取得させる」と定めておくこともできます。
【記載例】
「後日、上記以外の遺産が判明しその価格が10万円以下の場合は相続人○○花子がこれを取得し、その価格が10万円を超える場合はこれについて相続人○○花子と▲▲一郎は、改めてその分割の協議をする。」
「後日、上記以外の遺産が判明しその価格が10万円以下の場合は相続人○○花子がこれを取得し、その価格が10万円を超える場合はこれについて相続人○○花子と▲▲一郎は、改めてその分割の協議をする。」
2. 遺産分割協議をやり直せない場合
では、遺産分割協議のなかで交わされた約束を守らない相続人がいる場合も、遺産分割協議をやり直すことはできないのでしょうか?
例えば、「長男が自宅を取得する代わりに、代償として長女に1,000万円支払う」という遺産分割協議が成立したにもかかわらず、長男が代償金を支払わない場合です。
約束を守らない相続人がいる場合でも、それを理由に解除はできない
通常の契約事であれば、相手が約束を守らなければ契約を解除できます。
しかし、遺産分割協議の場合は、相手が約束を守らなかったことを理由に分割協議を解除することはできません。
この場合でも、相続人全員の同意を得れば解除できますが、同意を得られない場合、長女としては、長男に代償金の支払いを請求しつつ損害賠償を請求するしかありません。
代償金を払ってもらえない長女にとっては本当に気の毒なことになります。
代償金などの義務も定めた内容で遺産分割協議をまとめる場合、「本当に約束を守ってくれるか?」という視点がとても大切です。
むしろ、守れるかどうかわからない義務を定めるのではなく、必ず守ることができる義務を定めることが重要です。
3. 遺産分割協議をやり直さなければならない場合
ここまでは、最初の遺産分割協議が法律上有効に成立していることを前提としたお話しでした。
では、下記のように、そもそも遺産分割協議が有効に成立していなかった場合はどうでしょうか?
- 相続人の一部が参加せずに遺産分割をした場合
- 本当は相続人ではない人が参加して遺産分割をした場合
- 詐欺や脅迫によって遺産分割協議が成立した場合
この場合は、当然遺産分割協議をやり直さなければなりません。
また、有効に成立した遺産分割協議ではないので、やり直したからと言って贈与税などが課税されることもありません。
4. やり直しを避けるために心がけていること
遺産分割協議をやり直すというのは、とても難しいことです。
仮にやり直しができたとしても、手間と時間が無駄になるうえ、課税のリスクまで負うことになります。
私たち司法書士などの専門家が絡んでいる場合、やり直しはつまり、失敗と同じです。
一番大切なことは、やり直しする必要がない遺産分割協議をすることです。
私が相続の依頼をいただいたときに、遺産分割協議のやり直しを避けるために心がけていることを、自分への教訓も込めてまとめておきます。
- (相続人の調査は当然として)しっかり遺産を調査すること
- 遺産に関する情報を相続人全員で共有すること
- 納得や理解をしていない相続人がいるまま、手続きを進めないこと
不動産や預貯金など、代表的な遺産の調査方法については、下記の記事にかなり詳細に載せています。
かなりのボリュームですが、よろしければご参考になさってください。
せたがや相続相談プラザを運営するフィデス世田谷司法事務所は、世田谷区三軒茶屋の司法書士事務所です。
みなさまにとって一番安心できる相談先を目指しています。
相続問題で不安や悩みをお持ちの方は当事務所の無料相談をご利用ください。
3. 遺産分割協議をやり直さなければならない場合
- 相続人の一部が参加せずに遺産分割をした場合
- 本当は相続人ではない人が参加して遺産分割をした場合
- 詐欺や脅迫によって遺産分割協議が成立した場合
4. やり直しを避けるために心がけていること
- (相続人の調査は当然として)しっかり遺産を調査すること
- 遺産に関する情報を相続人全員で共有すること
- 納得や理解をしていない相続人がいるまま、手続きを進めないこと