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相続の基礎知識QA

内縁の夫の死後、認知されていない未成年の子に遺産を相続させたい。

認知されていない内縁の子供に遺産を相続させるための方法や手続きの流れをご説明します。

内縁の夫が先日亡くなったが、認知されていない未成年の子に遺産を相続させたい。
当事務所には、こんなご相談をいただくことがあります。

内縁関係にある妻が相続人になれないことは有名ですが、亡くなった父親と血がつながった子供がいれば、残された内縁の妻(子供の母親)にしてみれば、子供に遺産を相続させてやりたいと思うのは当然ですよね。

子供の相続権が認められるには、まず子供と亡くなった父親との間に親子関係があることを明らかにしなければなりません。

親子関係が明らかになった後は、未成年者である子供のために遺産分割協議をして、相続する財産を確定させる必要もあります。

やるべきことがとても多いうえに複雑なので、当事者にとっては非常に大変な手続きです。

ここでは、認知されていない未成年の子供に父親の遺産を相続させる方法を分かりやすく解説します。



内縁の子供(未成年者)に父親の遺産を相続させる方法(目次)



いきなりハードルが高いです。

父親が生きているうちであれば、単に認知の届出を出してもらうか、なにかの事情で届出が難しいなら遺言で認知してもらう方法も可能です。

しかし、このような方法で認知をしないうちに父親が亡くなってしまった場合は、裁判で認知してもらうしか方法がありません。

認知の訴えは、専門用語で「死後認知」と呼ばれています。

これがなかなか特殊な裁判で、弁護士さんでも経験がある方は少ないようです。

【認知の訴えの概要】
  • 訴えを起こせる期間:父親が亡くなった日から3年以内
  • 原告:未成年の子供の法定代理人(母親)
  • 被告:検察官
  • 訴えの提起先:原告または亡くなった父親の最後の住所地の家庭裁判所

  • 被告になるのは検察官

    何が特殊って、まず訴えの相手方となる被告が「検察官」。

    検察官っていうと普通は刑事裁判のイメージですが、死後認知の訴えでは本来被告になるべき父親は亡くなってしまっているので、代わりに検察官が被告になる、ってわけです。

    どこの検察官が被告になるかというと、「父親の最後の住所地を管轄する検察庁」、役職は「検事正」となります。なんだか怖いですね。

    とはいえ、形式上は検察官が被告になりますが、実際のところは亡くなった父親の両親や兄弟などが裁判の事実上の当事者になります。

    認知が認められた場合、子供が父親の第一順位の相続人になるわけなので、そうなると相続人としての立場を失ってしまう父親の両親(子供のおじいちゃん・おばあちゃん)や兄弟(子供のおじさん・おばさん)が裁判に参加してきます。

    父親の親族が裁判に参加してくることになるので、これも訴えを起こすほうにしてみれば、非常にハードルが高くなる原因ですね。


    決め手はDNA鑑定

    裁判の事実上の相手方となる父親の両親や兄弟が親子関係を積極的に争わない場合は、父親と子供の血液型に矛盾がないかどうか確かめるだけで裁判が終了することもあります。

    ですので、生前から家族ぐるみの付き合いがあった場合、例えば父親の両親と日頃から「おじいちゃん・おばあちゃん」として接してきた場合などは、意外に簡単に決着がつく可能性もあるわけです。

    一方で、「あの子はうちの息子の子供ではない!」と親子関係を争ってきた場合は、DNA鑑定が行われます。

    亡くなった父親のDNAが分かる髪の毛なんかがあればいいのですが、普通は残ってません。

    その場合は、亡くなった父親の近親者と子供のDNAを比較して鑑定されることになります。


    調停前置主義は適用されない

    通常だと、家庭裁判所に訴えを起こす場合は、まず「調停」を申し立てなければなりません。

    専門用語で「調停前置主義」なんて呼ばれています。

    家族関係のことで裁判をしたいなら、いきなり訴訟なんてせずに、まずは当事者同士で話し合いで解決できないか試してください、裁判所も関与しますから、っていう趣旨ですね。

    しかし、死後認知の訴えは被告が検察官という特殊な裁判。
    事情を知らない検察官と事前に話し合いっていうのはいかにも無理がありますよね。

    そこで、死後認知の訴えの場合、事前に調停を申し立てる必要はありません。

    いきなり訴訟を提起することになります。



    認知の訴えに勝訴すると、判決書が裁判所から送られてきます。

    判決書を受け取った日の翌日から2週間以内に控訴されなければ判決が確定、ここではじめて認知の効力が生じます。

    認知の効力が生じたら、今度は役所で認知の届出をします。

    戸籍に自動的に認知されたことが記録されるわけではなくて、あくまで自分で届け出る必要があるんですね。


    認知届の提出時期

    認知の判決が確定した日から10日以内です。
    この10日以内っていうのが、実はものすごく短い。

    というのも、認知届に必要な書類を準備するのが結構大変なんです。

    詳しくは「必要書類」の欄で説明しますが、この時期はとにかく時間が足りなくなりがちなのでご注意を。

    もっとも10日以内に届出ができなくても認知の効力がなくなってしまうことはありませんし、少しぐらい遅れたからと言って過料(お金をとられる行政罰)に処されることもありません。

    とはいえ10日以内と規定されている以上は、できる限り期間内に届出できるようにしましょう。


    必要書類

    (1)判決書謄本と確定証明書
    判決を出した家庭裁判所で交付してくれます。
    普通は申請してから後日郵送される取り扱いですが、死後認知の場合は認知届の提出期限がとても短いので、裁判所も急いで発行してくれます。


    (2)父親の除籍謄本と、認知された子供の戸籍謄本
    「除籍謄本」っていうのは、要するに「父親の死亡の記載がある戸籍」ってことです。

    提出する役所に父親や子供の本籍地がある場合は、役所側で当然に除籍や戸籍を確認できるので、提出は不要。

    反対に提出先の役所に父親や子供の本籍地がない場合は、本籍地がある役所であらかじめ取得しておく必要があります。

    が、判決確定から10日以内に戸籍謄本(除籍謄本)を揃えるとなると時間がありませんので、例えば事前に本籍地の役所で戸籍を取得しておくなどの工夫が必要です。


    (3)その他
    届出に行く人(母親)の「認印」(実印でなくても大丈夫)と、運転免許証などの「身分証明書」も持っていきましょう。


    認知届の提出先

    認知届の提出先は役所になりますが、以下のどの役所でも大丈夫。
    ですが、提出する役所に父親や子供の本籍地がない場合は戸籍(除籍)謄本が必要なので、要注意です。

    (a)亡くなった父親の本籍地がある役所
    (b)認知された子供の本籍地がある役所
    (c)届出人(法定代理人である母親)の所在地の役所


    ここからもハードルが高いです。

    無事に認知の効力が発生すると、亡くなった父親の相続人であることも確定しますが、今度は実際に遺産を分ける話し合い「遺産分割協議」をしなければなりません。

    相続人が子供だけならいいのですが、亡くなった父親に別の子供や配偶者がいると話し合い自体が難しくなる場合もあります。


    認知された子供の相続分は?

    子供は第一順位の相続人なので、必ず相続人になります。

    亡くなった父親に配偶者(法律上の婚姻関係にある妻)がいなければ、子供の人数に応じて均等に分配されます。

    かつては、認知された子(非嫡出子)のほかに婚姻している夫婦から生まれた子(嫡出子)がいる場合は、非嫡出子の相続分は嫡出子の半分と規定されていました。

    が、平成25年9月4日の最高裁判決で違憲であるとの判断がなされ、現在は非嫡出子と嫡出子は平等に取り扱われるようになっています。


    亡くなった父親に配偶者がいる場合
    亡くなった父親に配偶者(法律上の婚姻関係にある妻)がいる場合、相続分は配偶者が2分の1、子供全員で2分の1となります。

    子供が複数いるなら、嫡出子・非嫡出子に関わりなく、その人数に応じてこの2分の1を均等に分配します。

    【例:配偶者と子供3人の場合】
    配偶者の相続分:2分の1
    子供の相続分:それぞれ6分の1
    ※嫡出子・非嫡出子問わず、子供の相続分は平等です。

    認知された未成年の子供が2人以上いる場合は特別代理人の選任が必要

    未成年の子は、自分で遺産分けの話し合い(遺産分割協議)に参加することができません。
    その母親が法定代理人として遺産分割協議に参加することになります。

    ここで要注意なのが、認知された未成年の子が2人以上いる場合。

    母親が一人で数人の子供を代理して遺産分割協議をしてしまうと、ある子供はたくさん財産をもらえるけど、もう一方の子供はちょっとしか財産がもらえない、という内容になってしまうことが起こりえます。あくまで形式上は、ですが。

    ですので、認知された未成年の子が複数いる場合は、母親は全ての子の代理人として遺産分割協議をすることができません。

    母親は子供一人についてしか代理人になれないんですね。
    他の子供には母親以外の「特別代理人」をつけなければならない。

    特別代理人は家庭裁判所が選任しますが、これも自動的に選任してくれるわけではなく、申し立てをしなければなりません。

    この申し立ても、非常にハードルが高いです。

    というのも、申し立てをするには、本来特別代理人が選任された後でまとめるべき遺産分割協議の案を、事前に裁判所に提出する必要があるんです。

    後になってこれと異なる内容の遺産分割協議をまとめることは認められません。

    ですので、特別代理人の選任が必要な場合は、事前に「どういう内容なら子供の不利益とならないか?」を念頭に、特別代理人候補の人はもちろん、他に相続人がいればその相続人、それから裁判所ともきっちり打ち合わせをしておく必要があります。

    そして時間も。場合によっては3ヶ月ぐらいかかることがあるので、下手をすると相続税の申告に間に合わない!なんてことにもなりかねません。

    本当にハードルが高いですね。
    私たち司法書士はこの「特別代理人選任審判の申し立て」から手続きに関与することが多いのですが、いつも本当に難しい手続きだと感じます。


    特別代理人選任審判申し立ての必要書類など
    基本的に必要になる書類は以下のとおりです。
    ただし、事案によっては裁判所から他の書類の提出を求められることがありますので、事前に裁判所との綿密な打ち合わせをすることが大切です。

    【必要書類】
  • 子供の戸籍謄本
  • 親権者(母親)の戸籍謄本
  • 特別代理人候補者の住民票または戸籍附票
  • 遺産分割協議書案(利益相反に関する資料)

  • 【概要】
  • 時期:戸籍に認知の記載がされた後
  • 申立人:親権者(母親)
  • 申立先:子供の住所地を管轄する家庭裁判所
  • 費用:収入印紙800円、予納切手(裁判所ごとに異なる)


  • 認知の訴えが確定した時点で遺産分割協議が済んでしまっていたら?

    遺産分割協議は「相続人全員」でしなければならず、一人でも欠けていた場合は無効になります。

    父親が死亡した後に認知の効力が生じた場合でも、認知の効力は子供の出生時にさかのぼって発生するので、本来であれば認知された子供が参加していなかった遺産分割協議は無効になりそうなもの。

    でもここで無効にしてしまうと、例えば不動産を取得した他の相続人がすでにそれを他人に売却してしまったりしていると、取り戻すのが非常に大変なことになります。

    言ってみれば、せっかく認知の訴えが確定して一つの紛争が解決したのに、これがまた別の紛争を呼んでしまうってわけですね。

    ですので、相続発生後に認知された人がいる場合は、他の相続人がすでに遺産分割協議をしてしまっていても遺産分割協議は無効にはなりません、と民法で特別に規定されています。

    認知された人は不動産などの現物を請求することはできず、お金を請求することのみ認められています。

    ここでいうお金っていうのは、請求時点の時価になります。
    例えば遺産に不動産があった場合は、請求する時点の時価。これを相続分に応じて請求できるってわけです。

    それから、相続人になるってことは、亡くなった父親に借金があった場合も相続分に応じて負担することになるので要注意。

    遺産の調査をきっちりやっておかないと、ここまでの苦労はなんだったんだ!という事態になりかねません。


    遺産分割協議書を作成するのに準備しておいたほうが良いもの

    遺産分割協議がまとまれば、やっかいなハードルは越えたと言えます。
    あとは協議内容を書面に落とし込んで、遺産の名義変更を。

    これらの手続きに備えて、次の書類も用意しておきましょう。
    手続きがスムーズに進みます。
    【準備しておくと良い書類】
  • 亡くなった父親の出生時から死亡時までのすべての戸籍謄本
  • 亡くなった父親の死亡の記載のある住民除票、または戸籍附票
  • 認知された子供の戸籍謄本
  • 認知された子供の住民票
  • 親権者(母親)の実印と印鑑証明書
  • 他にも相続人がいる場合はその「実印・印鑑証明書」も必要になります。
    特別代理人が選任されている場合は、「特別代理人選任審判書」や「特別代理人の実印・印鑑証明書」も必要になる場合があるので、あらかじめその旨を伝えておきましょう。



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