また、他の相続人の方にとっても「あいつが破産したら自分たちのほうに回ってくる遺産も取り上げられてしまうのでは?」と心配になるかと思います。
相続人が自己破産する場合でも、「相続放棄」をうまく使うことによって、他の相続人に遺産を残すことができる場合があります。
これにはタイミングがとても重要。
いつ相続が発生したのか?破産の手続きは開始しているのか?
これをきっちり押さえておけば、有効な方法が見つかるかもしれません。
ここでは、「相続」と「自己破産」について、タイミングごとに可能な手続きや注意点をご説明します。
ご自身の状況に照らして、どういう手続きが可能なのかを検討する一助になれば幸いです。
相続人が自己破産する場合(目次)
1. 相続が発生したのはどのタイミングか?
まず確認すべきは、「相続が発生したのはいつか?」です。破産手続きでは、相続が発生したタイミングによって遺産の取り扱いが変わってきます。
そして、相続が発生したタイミングを破産手続きと照らし合わせて正確に把握するには、破産手続きの流れも知っておく必要があります。
≪自己破産の手続きの流れ≫
【1】自己破産の申し立て
書類をそろえて裁判所に破産を申し立てる手続きです。
【2】破産手続開始決定
申し立てを受けた裁判所が「破産の手続きに入りますよ」という決定を出します。
ここから正式に破産手続きがスタートとなります。
【3】免責許可決定
裁判所が「借金を帳消しにします」という許可を出します。
キーになるのは、【2】の「破産手続開始決定」。【1】自己破産の申し立て
書類をそろえて裁判所に破産を申し立てる手続きです。
【2】破産手続開始決定
申し立てを受けた裁判所が「破産の手続きに入りますよ」という決定を出します。
ここから正式に破産手続きがスタートとなります。
【3】免責許可決定
裁判所が「借金を帳消しにします」という許可を出します。
相続が発生したのが、この破産手続開始決定より前なのか後なのか、これが重要なポイントになります。
2. 破産手続開始決定前に相続が発生している場合
相続が破産手続開始決定前に発生している場合は、次に確認すべきポイントは破産の申し立てをすでにしているかどうか。破産の申し立てを全くしていない状態なのか、すでに申し立ては済んでいる状態なのかで、可能な手続きが変わってきます。
破産の申し立てをしていない場合は、問題なく相続放棄できる
破産の申し立てをしていない状態なら、はじめに相続放棄を完了させることで、一切の遺産を相続しないで済みます。相続放棄した人ははじめから相続人ではなかったことになります。
ですので、そのあとに自己破産をした場合も、遺産を取り上げられて債権者への弁済に回されるということはありません。
つまり、兄弟など他の相続人には一切迷惑が掛からないってことになります。
遺産に親の土地建物があるなら、それが取り上げられることもありませんので、他の相続人同士できっちり分けることができるというわけですね。
もちろん、相続放棄には「3ヶ月以内」という期限があるので要注意。
相続放棄は、原則として自分が相続人になったことを知ってから3ヶ月以内に家庭裁判所に申請しなければなりません。
まとめるととてもシンプルなのですが、自己破産をする場合でも相続放棄によって遺産を取り上げられずに済む場合というのは、次のとおりになります。
- 相続が開始してから3ヶ月以内
- 破産の申し立てをしていない
3ヶ月以内に手続きできなかった場合、もう相続放棄はできないの?をご覧ください。
何年も前に相続が発生していて、相続放棄ができない場合
「ずっと昔に相続が発生していて、自分が相続人になったことももちろん知っていた」という場合は、もちろん相続放棄はできませんが、あきらめるのは早いです。意外とよくあるのが、「何年も前に相続が発生したけど、遺産(特に不動産)の名義を変更していなかった」というパターン。
不動産の名義変更(相続登記)をしていないと相続人の共有になってしまうので、破産の申し立てをすると共有している部分を取り上げられてしまう!と思われがちです。
ここで慌てて遺産分割協議をして、さっさと他の相続人の名義に変えてしまおう!と相続登記をやってしまうと、本当に大変なことになりかねません。
これをやってしまうと、後で破産の手続きに入ったときに、破産管財人が「否認権」という強力な権利を行使することになります。
否認権を行使されると、簡単に言うと遺産分割協議が無効になって、破産者の共有持分が破産の手続きに組み込まれます。
つまり、遺産が取り上げられるってことになります。
まあ、それはそうですよね。破産の直前に不動産の相続登記をするなんて、財産逃れとみなされても仕方がありません。
相続登記が済んでいない不動産がある場合にやるべきこと
相続登記が済んでいない不動産がある場合、本当に大切なことは名義変更をしたかどうかではありません。ポイントになるのは、「実際に遺産分割協議をしたかどうか?」です。
遺産分割協議をしたかどうかは、「遺産分割協議書」を作ったかどうかのみで判断されるわけではありません。
遺産分割協議書も作っておらず、もちろん不動産の相続登記もしていないっていう場合でも、役所に固定資産税の「納税義務者の変更届」をしている場合がかなりあります。
相続が発生しているのに不動産の相続登記をせずに放っておくと、役所は誰が不動産の所有者(納税義務者)か分かりません。
そこで、「不動産の所有者は誰ですか?納税義務者を教えてください。」と調査してくる場合があるのです。
所有者が決まっていない場合、役所は「決まっていないなら、相続人全員で話し合って決めてください。」と指導してきます。
ですので、もし役所に「納税義務者の変更届」をしていたのであれば、過去に遺産分割協議をしていたという有力な証拠になります。
遺産分割協議をしていれば、その協議で取得すると決まった人が相続の時にさかのぼって、その遺産を所有していたことになります。
ですので、不動産の相続登記をしていない場合でも、あきらめずに固定資産税の納税通知書(毎年役所から送られてくる)の納税義務者欄を確認しましょう。
そしてもし、破産を検討している相続人以外の方が納税義務者欄に載っているのであれば、相続発生当時をよく思い出しましょう。
相続人全員で話し合って、納税義務者(所有者)を決めていた可能性があります。
当時相続人全員で話し合って所有者を決めていたのであれば、それは立派な遺産分割協議です。
破産を検討している相続人以外の方が所有者であれば、その不動産が破産の手続きに巻き込まれることはありません。
破産の申し立てをするなら、下手に相続登記などせずに、ありのままの状態で申し立てをしましょう。
破産の申立人が不動産の所有者(共有者)でないという具体的な事情については、破産の申し立ての際に添付する「上申書」に記載して裁判所に提出することになります。
破産の申し立てから破産手続開始決定までの間に相続が発生した場合
おそらくこれが最悪のタイミングと言えそうです。申し立てから開始決定が出されるまでの期間は、通常1週間ぐらい。
この期間中に相続人全員で遺産分割協議をして、申立人以外の相続人に遺産を取得させたとしても、さっきも出てきた破産管財人の「否認権」行使によって、本来の相続分は破産の手続きに組み込まれてしまいます。
また、破産手続開始決定までであれば破産申立人は自由に相続放棄できるのですが、もし間に合わずに、破産手続開始決定が出た後に相続放棄したことになると、相続放棄ではなくて「限定承認」とみなされます。(破産法238条1項)
限定承認とみなされるとどうなるかというと、「まず相続人が得た遺産の範囲内でのみ亡くなった被相続人の借金を支払って、プラスの財産が残れば破産の手続きに組み込んで処分します」ということになります。
簡単に言うと、遺産は破産の手続きに組み込まれて取り上げられる、っていうことですね。
これはどういうことかというと、相続放棄は身分行為なので、本来自由に行うことができる。
けれど一方では、もともと受け取るはずの遺産を全て放棄することになるので、債権者を害する可能性がある行為ともいえます。
なので、さすがに破産手続きが正式に開始された後は、自由な相続放棄は制限します、ってことですね。
3. 破産手続開始決定後に相続が発生した場合
これが一番救われるパターンです。破産手続開始決定後に破産申立人が得た財産は「新得財産」と呼ばれ、完全にその人が自由に処分できる財産となります。
ですので、破産手続開始決定後に相続が発生した場合は、相続人である破産申立人は、自由に遺産分割協議できますし、取得した遺産を自由に処分することもできます。
もちろん破産の免責が決定すれば、自分の負っていた借金は帳消しになるので、支払う必要もありません。
以上、「相続」と「破産」について、ちょっと変わった切り口で説明をしてきました。
こういう切り口って、いわゆる遺産隠しや財産逃れに見えるかもしれませんが、遺産と言えば自宅の土地建物と若干の預貯金のみっていう場合も多いです。
自分の生活再建のために決断する自己破産。これをすることによって、兄弟など他の相続人に迷惑をかけたくない!なけなしの遺産をできれば残したい!と考えるのは、当たり前のことだと思います。
債権者からするとたまったものではないかもしれませんが、まあ遺産は棚からぼた餅みたいなもの。
もともと遺産を当てにして相続人にお金を貸したわけではないでしょうから、相続放棄されてもしかたがないっていう面があるのではないでしょうか。
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