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相続の基礎知識QA

相続が発生したとき、入院費用や葬儀費用、購入するお墓の費用は誰が負担するの?

相続人同士での話し合いで決めるのが理想ですが、それぞれ難しい問題があります。

お墓の購入費用は別にしても、亡くなった方の入院費用や葬儀費用は、相続が発生してから最初に支払わなければならない費用なので、実は相続が発生したとき一番初めに悩むポイントですよね。

遺産(相続財産)の中から支払って良いのか?、それとも相続人のポケットマネーで立て替えて支払うべきか?

ここでは、相続が発生したときの遺産相続とはまた別に問題になりやすい、亡くなった方の「入院費用」「葬儀費用」「新たに購入するお墓代」の支払いを、誰がどう負担したらよいのかについて分かりやすく説明します。

支払った費用の税金関係の処理方法や細かな注意点もあわせてご覧ください。


亡くなった方の入院代・葬儀代金・お墓の購入費用の支払いと注意点(目次)


亡くなった方の入院費用は高額になることも多いですが、病院から請求書が来ると、とりあえず支払っておくという人がほとんどです。法律的に考えてみるとどうなるでしょうか?


相続人がポケットマネーで立て替えても大丈夫か?

入院費用を相続人が自分のポケットマネーで立て替えて支払うことは、特に問題になりません。

本来亡くなった方(被相続人)が支払うべきものを、代わりに自分の財産から支払うだけのことなので、遺産を処分したとして相続放棄ができなくなることもありません。

ポケットマネーから入院費用を支払う時は、領収書の宛名が自分になっているかをしっかり確認して、「○○銀行の口座からおろして支払った」などお金の出処をメモしておきましょう。

また、後から相続人同士でのもめ事の種にならないように、可能な限り、支払う前に全員の同意を得ておいたほうが安心です。少なくとも立て替え払いをすることの報告はしておいたほうがいいですね。

立て替えた費用は、遺産分けの話し合い(遺産分割協議)で清算すれば大丈夫。


相続財産から支払っても大丈夫か?

高額な入院費用を立て替えるのが難しい場合でも、相続財産から支払うのはおすすめしません。

入院費用を遺産から支払ってしまうと遺産を処分したとみなされて、相続財産の中に借金があった場合に相続放棄ができなくなってしまう可能性があります。

入院費用の立て替え払いが難しいときは、遺産として故人が遺した現金がある場合でも、病院には支払いを待ってもらって、まずは遺産の調査をすべきです。

遺産全体の状況を把握して、そもそも相続すべきなのか、それともプラスの財産もマイナスの財産も一切引き継がない相続放棄をすべきなのかを決めることを最優先にしましょう。

なお、相続放棄した場合は、入院費用を支払う必要もなくなります。


入院費用の保証人になっている場合

病院に入院する際は、入院費用の保証人を求められます。

書類には「身元保証人」と書かれていることが多いですが、内容をよく見ると入院費用の保証も含まれています。

入院費用の保証人にはご家族がなっている場合がほとんど。

亡くなった方の相続人が保証人になっていた場合は、相続放棄をしたところで、保証人として入院費用を支払う必要があるので注意が必要です。

保証契約はあくまでその相続人個人が病院と結んでいる契約であり、相続とはまったく関係がありません。

そのため、相続放棄しても、結局保証人としての支払い義務が残ることになります。


入院費用の支払いと税金関係

亡くなった方の入院費用は、以下の場合に差し引くことができます。

  1. 亡くなる前に入院費用を支払った場合
    亡くなった方の準確定申告で、医療費として控除できます。

  2. 亡くなった後に入院費用を支払った場合
    相続税申告の際に、医療費として控除できます。
    また、生計を一つにしていた相続人(亡くなった方が相続人の扶養に入っていた場合など)が支払ったのであれば、その相続人自身の所得税申告の際に、医療費として控除できます。



葬儀費用は100万円以上の高額になることが多く、支払いについて悩むことが多いですが、実際はどうするのが良いのでしょうか?


一般的な感覚

葬儀費用は、まず「香典」から支払うというのが一般的な感覚ですよね。

法律的にもそのとおりで、香典は相続財産ではなく、「亡くなった方の葬儀費用などに充てるための、葬儀を執り行う喪主への贈与財産」とされています。

香典は相続財産ではないので、遺産分け(遺産分割協議)の対象にはなりませんし、相続税が課税されることもありません。

まさに亡くなった方の葬儀費用に充てるためのお金ということになります。


そもそも葬儀費用は誰が負担すべきか?

これは明確に定められているわけではありませんが、最近は葬儀を主催する「喪主」が負担すべきという考え方が有力です。 平成24年3月29日の名古屋高裁の裁判例に出てきています。

この裁判例では、亡くなった方が生前いわゆる「終活」で葬儀の契約を済ませていた場合や相続人・関係者で費用負担の合意がある場合を除いて、葬儀費用は「喪主」が負担すべきという考え方になっています。

実際は相続人や身内が喪主になることが多いですが、誰が喪主を務めるにしろ、喪主がまず香典で葬儀費用を支払って、それでも足りない場合にはじめて、相続財産から支払うべきか、それとも相続人がポケットマネーで立て替え払いしても良いのか、という問題が出てくることになります。

なお、執り行う葬儀の規模や内容は、葬儀の主催者である喪主の責任で決定されます。

喪主が葬儀の内容を決める際は、故人や遺族の要望などがない限りは、あまりに常識からかけ離れた豪勢な葬儀は控えましょう。

香典で足りない分の葬儀費用の支払いを巡って、相続人や遺族とのトラブルの原因になります。


相続人がポケットマネーで立て替えても大丈夫か?

葬儀費用を相続人がポケットマネーで立て替えて支払うことは問題ありませんし、相続放棄ができなくなることもありません。

入院費用と同様に、相続人が立て替え払いをするときは、領収書の宛名が自分になっているかを確認したうえ、お金の出処をメモしておきましょう。

また、可能な限り立て替え払いをする前に、相続人全員の同意を得ておくか、少なくとも立て替え払いをすることの報告はしておくべきです。

立て替えた費用は、遺産分けの話し合い(遺産分割協議)で清算しましょう。


相続財産から支払っても大丈夫か?

葬儀費用は、相続人の立て替え払いはもちろん、相続財産から支払っても大丈夫です。

常識的な葬儀費用であれば、相続財産から支払っても、相続放棄ができなくなることはありません。

相続財産から支払っても相続放棄できなくなるリスクがないことが、入院費用の支払いと異なる点です。

それでも、無駄に豪華で多額の費用がかかった葬儀の場合は、遺産の処分とみなされて、相続放棄ができなくなる可能性はあります。

なお、遺産の中に現金があればそれで支払ってしまえば済みますが、多くの場合、現金ではなく銀行に預貯金として預けてあります。

銀行は口座名義人の死亡を知った時点で口座を凍結してしまうので、遺産分けの話し合い(遺産分割協議)などの手続きを踏んでいないと預金を引き出すことができません。

最近は事情を相談すれば葬儀代金の引き出しには応じる金融機関が増えてはいますが、その場合も戸籍や相続人全員の印鑑証明書などが必要で、残念ながら通常の相続手続きを踏んだ場合とさほど手間や時間に差がありません。

どうしてもやむを得ない場合は、金融機関が口座を凍結する前にキャッシュカードで引き出してしまうことも考えられますが、その場合も亡くなった方の葬儀代金の支払いに必要な金額にとどめるべきです。

必要以上に引き出してしまうと、トラブルの大きな原因になります。

口座凍結前に預金を引き出す場合は少なくとも、事前に相続人全員の同意を得ておきましょう。


葬儀費用の支払いと税金関係

葬儀費用は、相続税申告の際に相続財産から差し引くことができます。

相続税の申告の際に差し引くことができる葬儀関係費用は、以下のとおりです。
  1. 葬式代(仮葬式と本葬式をやった場合どちらも)
  2. 遺体や遺骨の運搬にかかった費用
  3. 火葬・埋葬・納骨にかかった費用
  4. お通夜の費用など、葬式の前後にかかせない費用
  5. 葬式の際のお寺への読経料などのお礼
  6. 葬儀を手伝ってくれた人へのお礼
支払った費用については、しっかり領収書を保管しましょう。
最近はお寺もきちんと領収書を渡してくれますが、渡してくれない場合は、こちらから言うしかありません。

また、手伝ってくれた方へのお礼については、領収書くださいとは言いづらいので、渡した相手の氏名・日付・金額はきちんとメモしておきましょう。

反対に、相続税申告の際に差し引くことができない費用は、以下のとおりです。
  1. 香典返しにかかった費用
  2. 初七日や四十九日など、法事の費用
  3. 亡くなった方のお墓購入のための費用(墓石代や永代供養料)


「埋葬料」「葬祭費」の請求を忘れずに

国民健康保険や健康保険(会社員)に加入している方が亡くなった場合、「埋葬料」や「葬祭費」を受給できる場合があります。

役所(国民健康保険・介護保険・後期高齢者医療保険)又は勤務先(会社員)に保険証を返却するときに忘れずに確認しましょう。



お墓を購入する費用というのは、墓石のみならず、お墓の土地を使う権利を取得するための「永代使用料」も含まれます。

これに工事代金やお墓をたてる手数料(建墓手数料)もあわせて、総額で200万円から400万円と、かなり高額な費用がかかります。

亡くなった親のお墓を購入する場合は、例えば家を出て独立している次男や長女などにとっては、「どうせ自分は別のお墓に入るから」という感覚があります。

高額なお墓の購入費用を誰がどうやって負担するか?を決めるには、とても難しい問題があるのです。


そもそもお墓の購入費用は誰が負担すべきか?

お墓の購入費用を誰が負担すべきか?については、明確な決まりがありません。

法律では「祭祀承継者」という考え方がありますが、新たにお墓を購入する場合の費用負担とは、直接関係がありません。
祭祀承継者とは、仏壇や先祖代々のお墓(祭祀財産と呼ばれます。)を受け継ぐ人を指します。
一般的には長男の方などが祭祀承継者として先祖代々のお墓を受け継いで維持管理していくことが多いです。
そのため、お墓を新たに購入する際は、相続財産から支払うのも、相続人がポケットマネーから支払うのも自由です。

常識外れの価格での購入でない限り、相続放棄ができなくなるということもありません。

また、喪主への贈与財産である香典から支払っても問題ありません。

いずれにしても大切なことは、費用負担の決まりが明確でない以上、購入を検討する段階で、他の相続人としっかり話し合うことです。

前述したとおり、家を出た子にとっては、購入するお墓には結局自分は入らない、という感覚があります。

例えば、自宅を長男が相続して、預貯金などの他の財産を次男が相続した場合は、長男としてはお金を相続していないのだからお墓の購入費用の半分は次男に負担してもらいたいと考える一方で、次男にとってはどうせ自分はそのお墓には入らないのだから費用の負担はしたくない、となりがちです。

まして、自宅やその他の遺産の全てを長男が相続した場合などは、他の兄弟にとってはさらにお金を出しづらいことになります。


お墓の購入と税金関係

亡くなった方のためにお墓を新たに購入する場合、購入費用を相続税から控除できるといった優遇はありません。
この点、もともとあるお墓を受け継いだ場合は、受け継いだお墓に相続税がかからないのと異なります。



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